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岸本外国法事務弁護士事務所

米国知財便り

AI技術に関する特許適格性判断基準の見直しを示唆する重要審決 ― Ex parte Desjardins, Appeal No. 2024-000567 (ARP, 2025年9月26日)(先例指定)

2025.11.05

USPTOの特許審判部(PTAB)は11月4日、「人工知能(AI)技術に関する特許適格性(35 U.S.C. §101)」を扱った上訴審査パネル(Appeals Review Panel: ARP)の決定を、先例(precedential)として指定しました。

2024-000567 – Ex Parte Desjardins et al Rehearing Decision Sep 26 2025

 

本件においてARPは、PTABが新たに提示していた§101に基づく拒絶理由を取り消し、当該クレームがAI技術における改良を示すものであり、特許適格であると判断しました。

 

(1)Enfish判決を踏まえた論理的構造の重視

 

ARPは本件決定にあたり、CAFCのEnfish判決を引用し、クレームは特許適格であると判示しました。同判決は、コンピュータ技術における多くの進歩は「その本質上、特定の物理的特徴によってではなく、論理的構造やプロセスによって定義されることがある」と指摘しています。Enfish, LLC v. Microsoft Corp., 822 F.3d 1327, 1339 (Fed. Cir. 2016).

 

ARPは本件決定において、AI技術の改良は抽象的アイデアにとどまらず、計算論的な構造上の改善として特許適格性を有するとの立場を明確にしました。

 

(2)§102、§103、§112による伝統的審査の重要性を確認

 

ARPは、本件クレームが自明性(§103)に基づいて拒絶されていることを踏まえ、「特許保護の範囲を適切に限定するための本来のツールは、§§102、103、112である」と説明。特許適格性(§101)により技術的進歩を不当に狭めるべきではないという実務上のメッセージを示しました。

 

(3)スコワイアーズ長官によるフォローアップ

 

Squires長官は、10月31日に開催されたAIPLA年次大会で、「特許適格性に関する新たなガイダンスを近く発表する」と発言しており、今回の先例指定はその約束を反映するものです。

 

同長官は特許適格性の再構築に向けた「三本柱(Three Pillars of Eligibility)」として、

1.35 U.S.C. §100(b)(発明の定義)

2.Enfish 判決

3.“Something More, Something Morse”(特許適格性判断における創意的要素の明確化)を挙げており、本件決定はその実践的な第一歩と位置づけられます。

 

コメント:

 

本決定は、AI関連発明における特許適格性(§101)審査の方向性を示す重要な先例であり、アルゴリズムや学習手法の「技術的改善」を主張する際の根拠として注目されます。実務上は、Enfish論理の再活用および自明性(§103)審査との明確な区別づけが鍵となりそうです。