米国知財便り
PTAB、フォーラム間での矛盾するクレーム解釈を問題視してTesla事件を「参考審決(informative)」として指定 — Tesla, Inc. v. Intellectual Ventures II LLC, IPR2025-00340, Paper 18
2025.11.06
米国特許審判部(PTAB)は、地裁とPTABで異なるクレーム解釈を採用したIPR申立人の説明の十分性を検討した決定を「参考審決(informative)」として指定しました。
Tesla, Inc. v. Intellectual Ventures II LLC, IPR2025-00340, Paper 18(Squires長官、2025年11月5日、informative)
IPR2025-00340_tesla-informative.pdf
本件において、IPR申立人のTesla社は、地裁ではクレームの不明確性(indefiniteness)を主張した一方で、PTABでのIPRでは特許権者側の通常の意味(plain and ordinary meaning)の解釈を採用していました。
Squires長官は11月5日、PTABの審理開始(institution)決定を取り消しました、
長官は、Teslaの「IPRでは不明確性を主張できないため異なる立場を取った」との説明を、異なる立場を正当化する根拠としては不十分と指摘。むしろその説明は、「二つのフォーラムで矛盾する無効理由を主張することを認めるべきだ」という主張に等しく、これは特許制度の予測可能性と一貫性を損なうものと判示しました。
― 本件 Tesla事件のポイント ―
当事者系レビュー(IPR)では、米国特許法上、特許請求の範囲の不明確性(indefiniteness)を理由に無効を主張することはできません。すなわち35 U.S.C. §311(b) の下では、IPRで争えるのは「102条(新規性)」と「103条(進歩性)」のみ、と限定されています。
そのため、申立人が地裁では「クレームは不明確だ」と主張しながら、PTABでのIPRではその主張をできないという状況がよく生じます。
本件においてTeslaは、2つのフォーラム(地裁とUSPTO)において、以下のように全く異なるクレームの解釈を採用していました。
・地裁では:「クレーム記載は不明確(indefinite)である」と主張。
・PTAB(IPR)では:不明確性を主張できないため、「特許権者が示す通常の意味(plain and ordinary meaning)」でクレームを解釈した上で無効理由を提示。
本件審決における長官説明は以下の通りです。
Teslaは、IPR手続の制約上、不明確性は主張できないから仕方なく異なる解釈を採用した。
それは単に制度上の制約(=形式的理由)に過ぎず、なぜクレームの意味解釈が両フォーラムで異なるべきなのかという実質的説明になっていない。
たとえば、地裁では「この用語は曖昧すぎて意味が取れない」と主張しながら、PTABでは「明確に意味が分かる」と前提して無効理由を立てる、というのは一貫性を欠く。
― 実務的対応 ―
・地裁とPTABでのクレーム解釈に一貫性を欠く場合、その理由を明確に説明する必要がある。
・「IPRでは不明確性を主張できない」という形式的理由だけでは不十分。「なぜ地裁とPTABで違う立場を取る必要があるのか」を正当化しなければならない。
・USPTOは、特許制度全体における整合性と信頼性の確保を重視する姿勢を再確認。
この決定は、フォーラム間での戦略的立場変更に対して警鐘を鳴らす重要な指針となりそうです。