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岸本外国法事務弁護士事務所

米国知財便り

「小が大を制す ─ 歴史に学ぶ現代ビジネスと知財戦略」【第1回】アレクサンドロス大王に学ぶ「一点突破」

2025.11.10

― 限られた資源を集中し、勝負を決める ―

 

紀元前331年、マケドニア王アレクサンドロス(アレクサンダー)大王は、ペルシャ帝国ダレイオス3世の大軍をガウガメラの戦いで破りました。

 

兵力差は2倍以上。しかし彼は、全戦線で戦わず、敵の中枢一点に精鋭を集中させる「一点突破」で勝利をつかんだのです。

 

アレクサンドロスは軍をあえて薄く広げ、包囲されるように見せかけました。敵の主力が中央に集まった瞬間、自らが率いる騎兵隊でその一点を突破し、指揮系統を一気に崩壊させました。結果は、圧倒的劣勢からの完全勝利でした。

 

この「一点突破」の発想は、現代のビジネスにも通じます。

資金・人材・ブランド力で劣る中小企業やスタートアップが、大企業に真正面から挑めば、消耗は避けられません。むしろ、限られたリソースを一点に集中し、他が真似できない価値を磨くことこそ、逆転の鍵になります。

 

たとえば、Airbnbはホテル業界全体を相手にせず、「個人の空き部屋」という一点に集中しました。限られた資源を焦点化することで、大手が見落とした新市場を切り開いたのです。

 

勝負は総力戦ではなく、「決定的瞬間」をどう作るかで決まります。

そのためには、すべてに手を広げるのではなく、「ここで勝つ」という焦点を明確にし、他を捨てる勇気が求められます。

 

【知財への教訓:特許の“一点集中”戦略】

 

リソースの限られる企業にとって、むやみに広く浅い出願を行うよりも、「核となる技術領域」に集中して強い特許を築くことが重要だと思われます。

 

数より質、広さより深さ。特定技術分野を一点深く掘ることが、知財戦略における真の競争優位をもたらすことがあります。

 

たとえば、Dyson(ダイソン)はサイクロン掃除機の「吸引構造」に特化し、特許で競合の模倣を防ぎました。結果として、家電大手がひしめく市場で独自の地位を築きました。

 

キーエンスはセンサー技術という一分野に集中し、独自技術と営業力の両輪で高収益を実現しています。

 

Tesla(テスラ)は高級EV分野に的を絞り、バッテリー制御特許群によって自社エコシステムを構築しました。

 

任天堂は「高性能競争」から離脱し、直感的操作という一点に集中して新たな娯楽体験を創出。特許や商標で操作体系と体験価値を保護しました。

 

アレクサンドロスの戦術が示すように、勝敗を決めるのは兵力の多さではなく、集中の精度と決断の速さです。

 

知財戦略においても、まさにその原理が生きているといえるでしょう。