“いざ”に備える企業のパートナー。

岸本外国法事務弁護士事務所

米国知財便り

「小が大を制す─歴史に学ぶ現代ビジネスと知財戦略」【第5回(最終回)】ナポレオンに学ぶ「集中と突破」

2025.12.15

― すべてを同時に守ろうとすれば、すべてを失う ―

 

19世紀初頭、ヨーロッパ全土を席巻したナポレオン。

その強さの本質は、巨大な国力や圧倒的な兵数ではありませんでした。彼の真の武器は、「集中の原則」と「高速機動」にありました。

 

ナポレオン軍は、必ずしも常に兵力で優位に立っていたわけではなく、戦場によっては劣勢に立たされることも少なくありませんでした。それでも彼は、分散しがちな敵に対し、戦場を厳選し、兵力を一点に集中させる「コルプ(軍団)制度」を導入します。各軍団は独立して行動できる柔軟性を持ちながら、決戦の瞬間には極めて短時間で集結し、局地的に圧倒的兵力を形成しました。

 

その戦術が最も鮮やかに示されたのが、アウステルリッツ(三帝会戦)です。

ロシア・オーストリア連合軍9万に対し、フランス軍は7万。

兵力差は明白でしたが、ナポレオンはあえて右翼(プラツェン高地)を弱く見せ、敵を誘導。

敵兵力が集中して中央が手薄になった瞬間を逃さず、予備兵力を一点に投入して中央突破を敢行しました。指揮系統を分断された連合軍は総崩れとなり、戦局は一日にして決しました。

 

ナポレオンの強さの本質は、「分散せず、勝てる一点にすべてを注ぐ」という徹底した集中力にあります。

 

「弱点を守るのではなく、勝てる場所に力を集めて突破する」―この戦略哲学は、現代ビジネスにもそのまま通じると思われます。

 

【現代ビジネスに通じる──選択と集中】

 

企業の資金・人材・時間は有限です。すべての市場、すべての製品を同時に追いかければ、結果は中途半端に終わります。成功する企業は、「どこに集中するか」を大胆かつ冷静に選び抜いています。

 

Amazonは、クラウド(AWS)に人材と研究開発を集中。当初は小規模と見られていた事業を、世界最大のクラウド基盤へと育て上げました。

Teslaは、広告に資金を割かず、EV・バッテリー・ソフトウェアに集中投資。その一点集中が市場支配力を生みました。

任天堂は、性能競争を避け、「体験」に集中。Wii や Switch は、少数の強みを磨き抜いた結果の成功です。

Dysonは、サイクロン構造に30年以上投資を集中し、その原理を複数市場へ展開しました。

Zoomは、多機能化を追わず、「オンライン会議」という一点に集中し、世界標準の地位を築きました。

 

【知財への教訓:特許もブランドも「集中」が勝敗を分ける】

 

知財戦略もまた、分散すれば弱くなります。「守るべき核心」を見極め、そこに知財を集中させる企業が勝ち残っています。

 

① 技術を一点突破で守る企業

・クアルコムは、通信の標準必須特許(SEP)をモデム技術に集中し、圧倒的ライセンス力を確立。

・ASMLは、EUV露光装置に全社を集中。極厚の特許網が参入障壁となっています。

・旭化成は、LIB用湿式セパレーターに特許を集中し、EV市場で圧倒的優位を維持。

・村田製作所は、MLCCの構造技術に特許を集積し、その多層構造自体が知財障壁となっています。

 

② ブランド戦略における集中

・ユニクロは、ヒートテック/エアリズムを早期に世界商標化し、模倣を排除。

・スターバックスは、「体験」にブランドを集中し、世界で一貫した価値を構築。

・ナイキは、スウッシュとAir技術を中核に、デザイン・特許・広告を一体化しました。

 

③ 技術の再配置で優位を得た企業

・コニカミノルタは、光学技術を医療・ヘルスケアへ集中転用。

・パナソニックは、電池技術をEV分野に再集中し、Teslaとの協業で地位を確立。

・富士フィルムは、フィルム技術を医療・化粧品分野へ展開し、知財で新市場を支配しました。

 

④ スピード×集中で市場を制した例

・OpenAIは、ChatGPTを先行投入し、APIと商標戦略で主導権を獲得。

・LINEは、高速投入とUIデザイン戦略で国内SNS市場を制圧。

・Snapchatは、「消えるメッセージ」に集中し、先行特許で差別化しました。

 

ナポレオンの強さは、資源を一点に集め、そこを高速で展開する能力にありました。

現代のビジネスと知財においても、

・全方位に手を広げず

・勝負どころを見極め

・資源と権利を一点に圧縮して投入する

この「局地戦の勝利」の積み重ねが、最終的な市場支配につながると思います。

 

以上、5回にわたり「小が大を制す─歴史に学ぶ現代ビジネスと知財戦略」を考察してきました。

 

兵力では劣っていても、戦略・集中・意思決定によって勝利した歴史は数多く存在します。その本質は、現代のビジネスや知財戦略にも十分応用可能だと考えます。

 

なお、本稿で挙げた企業・事例は独断と偏見によるものであり、必ずしも完全な正確性を保証するものではありません。もし理解に誤りがあれば、ご容赦いただければ幸いです。