米国知財便り
スキニー・ラベルと誘発侵害 ― 最高裁が判断を示す可能性のあるAmarin事件と、過去に上訴却下されたTeva事件
2026.02.04
昨日ご報告しましたとおり、米国連邦最高裁は2026年1月16日、スキニー・ラベルと誘発侵害の関係が争われた Amarin事件(Hikma Pharmaceuticals USA, Inc. v. Amarin Pharma, Inc.)について、上告を受理しました。
本稿では、あらためてスキニー・ラベルとは何かについて簡単に補足します。
1.スキニー・ラベルとは何か
「スキニー・ラベル(skinny label)」とは、後発医薬品メーカーが、ジェネリック医薬品の承認申請やラベル・添付文書を作成する際に、現在も有効に存続している先発医薬品の特許に係る効能・効果をあえて記載しない方法をいいます。日本でいう「虫食い申請」に近い考え方です。
米国では、先発医薬品メーカーは、オリジナルの有効成分に関する特許が満了した後であっても、その医薬品について新たな用途を見出し、後願により用途特許を取得することがあります。こうした用途特許が認められれば、結果として独占期間を実質的に延ばすことが可能となります。
このような状況を踏まえ、米国ではFDAが、特許がすでに満了した効能・効果のみに限定してラベルや添付文書に記載し、ジェネリック医薬品を販売することを認めています。これが、いわゆるスキニー・ラベル制度です。
この制度により、有効成分特許が満了していても特定用途について後願特許が残っている場合、ジェネリック医薬品は、特許が切れた用途に限定して記載することで、市場参入が可能とされています。
例えば、ある医薬品について、高血圧症に関する特許が失効している一方で、うっ血性心不全に関する用途特許が存続している場合、後発医薬品メーカーは、高血圧症の適応症のみをラベルや添付文書に記載してジェネリック医薬品を販売することができます。これにより、後願特許で保護された新たな適応症に対する特許侵害を回避することが可能となります。
もっとも、米国では、医師による「オフ・ラベル使用(off-label use)」、すなわち承認されていない効能・効果や用法・用量での使用が合法とされています。そのため、ラベルや添付文書に記載がなくても、特許対象の用途に医薬品が使用される可能性があります。
後述のTeva事件では、Tevaのジェネリック医薬品のラベルや添付文書には「うっ血性心不全予防」の適応症が記載されていなかったにもかかわらず、医師の判断により同用途で使用されたことから、医師による「直接侵害」が認定されました。なお、誘発侵害は間接侵害であるため、このような直接侵害の存在が前提となります。
この点が、スキニー・ラベルと特許法上の誘発侵害との関係を巡る、現在の重要な争点となっています。
2.最高裁が上告を受理したAmarin事件
Amarin事件では、CAFC(連邦巡回控訴裁判所)が、スキニー・ラベルを採用していても、ラベルの記載内容や販売・マーケティングの態様次第では、特許用途への使用を「誘発」したと評価し得るとの判断を示しました。
最高裁が本件を審理することで、スキニー・ラベルというFDA上認められた制度と、特許法上の誘発侵害法理をどのように調整すべきかについて、初めて最高裁の判断が示される可能性があります。
3.過去に最高裁が判断を示さなかったTeva事件
スキニー・ラベルを巡る先例として、Teva Pharmaceuticals USA Inc. v. GlaxoSmithKline LLC 事件があります。Teva社は、GSK社の医薬品について、特許が残る適応症を除外したスキニー・ラベルでジェネリック医薬品を販売しました。
しかしCAFCは、Teva社の表示や販売行為が医師に特許用途での使用を促したとして、誘発侵害を認定しました。Teva社は最高裁に上告しましたが、最高裁は上告を却下し、CAFCの判断が維持されました。
4.今後への示唆
Teva事件では最高裁の判断は示されませんでしたが、今回のAmarin事件では上告が受理されており、状況は大きく異なります。最高裁の判断次第では、スキニー・ラベルによる侵害回避の有効性が大きく制限される可能性もあれば、逆に制度の位置づけが明確化される可能性もあります。
スキニー・ラベル制度の将来を左右する重要な判断として、今後の動向が注目されます。