米国知財便り
米国デザイン特許の保護範囲の拡大 ― 判例が“否定しなかった”新領域
2026.03.25
近年、米国におけるデザイン特許(design patent)の保護範囲は、従来の「物理的製品の外観」から、デジタル空間における表示へと静かに広がりを見せています。AI技術の進展やUI/UX重視の製品設計の潮流の中で、この変化は実務上無視できないものとなっています。
米国特許法第171条(35 U.S.C. §171)は、「物品(article of manufacture)」に具現化されたデザインを保護対象としています。この点について、USPTOの審査基準(MPEP §1500、特に§1504.01(a))は、コンピュータ画面上のGUIやアイコンについても、ディスプレイと結びつく限り「物品」に該当し得ると明示しています。この解釈により、物理的実体を伴わない表示であっても、実務上は広く保護対象に取り込まれてきました。
たとえば、スマートフォンや車載ディスプレイに表示されるGUIはもとより、VR空間における操作画面や、AR表示、さらにはホログラム的に表現される画像であっても、それがディスプレイ等を通じて具体的な視覚的形態として把握される限り、デザイン特許の保護対象となり得ます。
こうした流れを理解する上で重要なのは、判例の役割です。
デザイン特許の侵害判断における基本原則は、Gorham Co. v. White(1871)に端を発し、Egyptian Goddess, Inc. v. Swisa, Inc.(Fed. Cir. 2008)により再整理された「普通の観察者(ordinary observer)」基準にあります。この基準は、物理的製品かデジタル表示かを問わず、「需要者の視点から見た全体的印象」によって類否を判断するものであり、結果として新しい表示形態にもそのまま適用可能な枠組みとなっています。
その後の判例も、この枠組みを維持したまま適用範囲を実質的に広げています。たとえば、Samsung v. Apple(2016)では、「article of manufacture」が製品全体に限られず、スマートフォンの画面UIのような部分にも及び得ることが示され、表示デザインの価値が最高裁レベルで認知されました。また、Curver Luxembourg v. Home Expressions(Fed. Cir. 2019)は、デザインが特定の物品に結びつく必要性を強調する一方で、適切に媒体や使用態様を特定すれば、GUIや仮想表示も保護対象となり得ることを示唆しています。さらに、Columbia Sportswear v. Seirus(Fed. Cir. 2019)や In re SurgiSil(Fed. Cir. 2021)においても、「見た目」の印象を中心とした判断が一貫して維持されています。
注目すべきは、これらの判例が新分野の保護を明示的に宣言したわけではない点です。
むしろ、既存の判断枠組みを維持したまま、新しい対象を特に排除することなく適用してきた結果として、デジタル領域への拡張が進んだと評価できます。すなわち、米国におけるデザイン特許の保護範囲は、「判例によって創られた」というよりも、「判例が否定しなかったことにより広がった」と捉えるのが適切でしょう。
このように、米国デザイン特許は「モノの形状」から「表示されるデザイン」へと重心を移しつつあります。日本でも画像意匠の保護が導入されていますが、米国は判例と実務の蓄積を通じて、より自然な形でデジタル領域に適応してきました。
デジタル製品が主戦場となる現在、デザイン特許は外観保護を超え、「体験そのもの」を守る手段へと進化しています。その保護範囲の変化を正しく捉えることが、実務におけるリスク判断の精度を左右するといえるでしょう。