米国知財便り
米国知財リスクの基礎シリーズ【第4回】社内メールが証拠になる? ― discoveryの衝撃
2026.03.30
米国特許訴訟では、訴訟費用の多くがディスカバリー(discovery)に費やされると言われています。
米国特許訴訟の特徴として、日本企業の担当者が最も苦労する制度の一つがこの「ディスカバリー(証拠開示)」です。これは、訴訟当事者が互いに証拠を開示し合う手続であり、訴訟の初期段階で、当事者は相手方に対して広範な資料の提出を求めることができます。
日本の民事訴訟では証拠提出は比較的限定的ですが、米国では事情が大きく異なります。
ディスカバリーでは、技術資料、社内報告書、設計図面、営業資料などに加えて、社内メールや社内チャット、会議メモなども提出対象となる可能性があります。特に近年では電子データが中心となるため、この手続は「e-discovery」と呼ばれることもあります。
米国のディスカバリー制度では、訴訟に関連する可能性がある情報について広く開示を要求することが認められています。そのため、企業の内部文書が後に裁判で重要な証拠として使われることも少なくありません。例えば、社内メールの中に「この特許は問題になりそうだ」「当社製品は特許を侵害している可能性が高い」「回避設計は難しい」といった記述があれば、それが後の訴訟で引用されることもあります。
この電子証拠開示の問題について象徴的な判例として知られているのが、ニューヨーク連邦地裁の Zubulake v. UBS Warburg 事件です。この事件では、電子メールの保存・提出義務や証拠の保存義務(litigation hold)の重要性が示され、電子証拠の管理が訴訟実務において重要なテーマとなりました。
企業実務の観点から見ると、ディスカバリーの問題は、訴訟が提起された後だけの問題ではありません。むしろ、日常業務の中で作成される社内文書やメールの内容が、将来の訴訟においてどのように解釈されるかが重要になります。特に米国特許訴訟では、技術者や営業担当者の社内コミュニケーションが後に証拠として提出されることもあるため、文書やメールの作成に際しては一定の注意が必要です。
私の経験上、ディスカバリーの段階で提出された社内文書が、訴訟の流れを大きく変える場面は決して珍しくありません。米国特許訴訟では社内情報の広範な開示が求められるため、企業が弁護士とどのようにコミュニケーションを取り、どのように法的助言を受けるかが重要な意味を持ちます。
次回は、このディスカバリー制度と密接に関係する「弁護士・依頼者間秘匿特権(attorney-client privilege)」について解説します。