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【クロスボーダーをまたぐ日常】鉄道編第3話-車掌が去ったあとの車内で
2025.12.14
アムトラックに乗っていたとき、少し気になる、というより、あとになってじわりと驚いた場面に遭遇したことがあります。
ちょうど車掌が検札を終えてその車両を通り過ぎた直後、いかにも落ち着かない様子の男が車内をうろうろし始めました。
しばらくすると、トイレに立った乗客の座席に近づき、手荷物の中から金目のものらしきものを素早く抜き取る。そして、次の駅で何事もなかったかのように降りていきました。ほんの一瞬の出来事でした。周りの乗客も、どこか気づいているような、いないような。少なくとも誰も声を上げることはありませんでした。車窓から見ていると、その男が駅を出て、足早に立ち去っていく後ろ姿が、なぜか強く印象に残っています。
日本の感覚だと、列車内でトイレに立つことに、あまり緊張感はありません。ところがそのときは、「アメリカの鉄道では、すこしでも席を離れるにも注意が要るのだな」と妙に印象に残りました。
入口にも出口にも改札がなく、検札は車内で一度きり。
便利で合理的な仕組みですが、その分、車内はかなりオープンです。安全はシステムが守るというより、各自が気をつける前提で成り立っている。そんな空気を感じました。
以来、アムトラックでは、トイレはがまんするか、立つとしても、貴重品は必ず身につけるようにしています。
その習慣は日本に戻ってからも抜けず、今ではトイレに限らず、離席するときは、場所を問わず必ず、貴重品を持つようになりました。
アメリカの鉄道は、どうやら油断するとトイレにも行けません。
制度が違えば、気を配る場所も変わる。鉄道の運用ひとつ取っても、文化の差は思いがけないところに表れるものです。