米国知財便り
CAFC、「F ワード」商標事件でTTAB判断を差戻しー In re Brunetti, No. 2023-1539(2025年8月26日判決)
2025.12.22
― 表現内容ではなく「商標としての機能」の判断基準が問題に ―
米国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は、いわゆる「Fワード」を含む商標出願について、USPTOの商標審判部(TTAB)の判断を取り消し、審理を差し戻しました。本件は、「過激な表現を含む商標をどのような基準で評価すべきか」という点で、企業実務上も注目されています。
【争点】
ファッションデザイナー Erik Brunetti が、「FUCK」(Fワード)の商標登録を試みた際に、USPTOの審査官と商標審判部(TTAB)がこれを拒否した判断が正当かどうか。
【TTABの判断】
TTABは、当該語が卑猥であることを理由に登録を拒絶したわけではありません。2019年の米国最高裁判決 Iancu v. Brunetti により、「不道徳・猥褻(immoral / scandalous)」を理由とする拒絶は憲法(言論の自由)違反として認められていないためです。
TTABで採用された拒絶理由は、「failure to function(出所表示として機能しない)」でした。すなわち、「当該語は一般的・多用途な表現であり、消費者にはブランドではなく、単なるメッセージとして受け取られるにすぎない」という判断です。
【CAFCの判断】
CAFCは、当該商標が登録可能か否かという結論判断には踏み込みまず、TTABが「出所表示として機能しない」と判断するための具体的な基準を示していない点を問題視しました。
CAFCは、どの要素を重視したのか、どの程度一般的であれば failure to function に該当するのかといった説明が不足しており、判断が直感的に見えるとして、事件を差し戻しました。
【日米制度の違いと実務への示唆】
日本では、卑猥・下品な表現はそれ自体、商標法4条1項7号(公序良俗)により、識別力の有無を検討する前に排除されるのが通常です。
これに対し米国では、米国憲法上、表現内容の良し悪しを理由に拒絶することはできず、「商標として機能するか」という価値中立的な観点のみが判断対象となります。
本判決は、スローガンや一般語、強いメッセージ性を持つ商標について、failure to function を理由とする拒絶に対応する際の重要な指針となるものです。
【要点】
CAFCは、「表現の是非」ではなく、「(USPTOが)商標として機能しないと判断するのであれば、その基準を明確に示す必要がある」という姿勢を明確にしました。
【実務ポイント】
米国では、例えば、“BEST”, “SMART”, “COOL”, “FRESH”, “EASY CLEAN”, “F***”, “HELL”など品質・特徴そのものを示す言葉、感情・反応を示す言葉、流行語やスラング、商品の機能・特徴、卑猥・挑発的表現など、出所表示として認識されにくいものは、商標登録される可能性は低いと思われます。そのため、米国で通りやすいネーミングとしては、誰のブランドかを識別できる「出所表示装置」として設計する必要があります。