米国知財便り
期限切れ特許に対するIPR申立は可能か❓― CAFC判断が米最高裁不受理により確定(2025年11月17日)
2025.11.20
米連邦最高裁は2025年11月17日、期限切れ特許に対するPTABのIPR審理の可否が争われた事件の上告受理を拒否しました。
これにより、2025年1月にCAFC(連邦巡回控訴裁判所)が示した「たとえ特許が存続期間満了後であっても、PTABはIPRを行う管轄を有する」との判断が確定しました。
この判断により、期限切れ後の特許に対しても、PTABを通じた無効化チャレンジが制度的に裏付けられたことが確定しました。
【 争点のポイント】
本件では、すでに存続期間を満了した特許に対して、第三者がIPRを申し立てられる否かが争われました。
特許権者は、期限切れ特許はもはや公共のフランチャイズとしての法的性質を失い、行政機関であるPTABの審理対象にはならないと主張しました。
これに対し、CAFCは以下の考えを採用しました。
・IPRは「特許付与に対する行政的な二次チェック(second look)」であり、その性質は特許が期限切れか否かで変わらない。
・よって、PTABの管轄は維持される。
【 本件の手続き経緯】
・2021年:Apple, Google, and LGが、すでに期限切れとなっていたGesture Technologiesの特許に対して IPRを申立。
・PTAB:一部クレームの無効を判断。
・2025年1月(CAFC):「特許満了後でも PTAB 審理は可能」と明確に判示。IPRは「特許付与に対する行政的な二次チェック(second look)」であり、満了後でも構造は変わらないと説明。PTABの判断を基本的に支持。
・2025年11月(最高裁):特許権者の上告(certiorari)を受理せず。CAFC判断がそのまま確定。
【 実務への影響】
(1)期限切れ特許のリスク管理
・特許が存続期間満了後であっても、後年にIPRを通じて無効化されるリスクが残ることが明確に。
・存続期間満了後の特許を防御資産として扱う場合、その安定性が従来よりも低下。
(2)無効化戦略の選択肢拡大
・競合企業は、すでに有効期間を終えた特許であっても、IPRによる無効化を検討可能。
・米国で過去の侵害主張等が残っている場合、期限切れ特許であってもIPRが紛争解決の一手となり得る。(<―重要)
(3)ライセンス・交渉への影響
・限切れ特許を含むライセンス請求や残存損害賠償主張に対し、IPRを用いた有効性争いが可能になった点は交渉力にも影響。(<―重要)
・特に、満了後であっても遡及損害を主張する局面では重要。
(4)今後の見通し
・最高裁が憲法論点について判断しなかったため、他の事案で細かな論点(申立タイミング・事案の性質等)が問題化する可能性は残る。
・ただし現時点では、「期限満了特許でもIPR審理可能」というCAFCルールが実務標準となる。
【 まとめ】
今回の最高裁不受理により、PTABは特許満了後であってもIPR審理が可能というCAFCの判断が確定しました。
企業の知財戦略においては、期限切れ特許を巡るリスク評価や、紛争処理・無効化施策の再検討が必要となります。