米国知財便り
現在のAIと特許に関する法的問題点と実務的ポイント
2025.10.22
1.AIは発明者になれない
・現状:ほとんどの特許法(米国、欧州、日本など)では、発明者は「自然人(人間)」である必要があります。AI自身が特許出願を行ったり、権利を持ったりすることは認められていない。
・問題点:AIが自律的に創出した発明の発明者を誰にするか(AI開発者なのか、AIを操作した人間なのか)が明確でない。
・影響:AIによる創作物が増える中で、権利帰属やライセンスの扱いが不透明になる可能性がある。
2.特許性の判断が難しい
・新規性・進歩性の評価:AIによる自動生成発明は、人間の発明と比べて「予測可能性」「既存技術との差異」が不明確になりやすく、審査官の判断が難しくなる。
・実施可能性(enablement):AIが作った発明の仕組みを人間が理解・再現できるかも課題。特許法では発明の内容を明瞭に開示することが求められるが、AI生成物はブラックボックス化している場合がある。
3.権利侵害リスク・責任問題
・AIを使って作った発明や製品が他人特許を侵害した場合、責任主体をどうするかが明確でない。
・開発者・使用者・AIプラットフォーム運営者の責任範囲が法的に定まっていないケースがある。
4.著作権との交差
・特許だけでなく、AI生成物は著作権との関係も問題に。
・たとえば、AIが自動生成したプログラムやデザインが著作物と認められるかどうかは国によって解釈が異なる。
5.AIによる審査の信頼性・透明性
・USPTOやEPO、JPOでもAIを審査支援ツールとして導入中だが、AI判断の透明性や偏りの問題がある。
・特に自動評価結果を審査にそのまま使うと、法的安定性や特許権者の予測可能性に影響。
実務上のポイント
1.発明者は人間で明確化
・AIが生成した発明でも、必ずAIを操作・開発した人間を発明者として出願。
・DABUS事件の米国・欧州判例で、AI単独発明は認められないことが確認済み。
2.AIの貢献の明確化
・明細書にはAIの役割(生成補助、計算支援など)を記載し、人間の創意工夫との関係を示す。
・審査官が再現可能なレベルで技術的寄与を説明。
3.権利帰属・ライセンス契約の整理
・AIを使った発明の権利は開発者・使用者に帰属。
・社内ルールや契約でAI利用者と開発者の権利関係を明確にする。
4.審査支援AIの利用
・USPTO、EPO、JPOでAIを審査補助ツールとして活用中。
・自動分類や引用文献提示などを利用する場合、判断の最終責任は審査官にあり、ツールの限界を理解して使用。
5.今後の法改正動向
・AI発明の権利者・発明者規定の議論が国際的に進む可能性。
・実務では現行法を前提に、人間中心の権利帰属・明細書記載を徹底することが安全策。
まとめ
・AIは発明者になれず、人間の操作・貢献を明確にして特許出願することが基本。
・明細書でAIの役割と技術的寄与を説明することで、審査リスクを低減。
・国際的に共通課題であり、三極特許庁のAIワーキンググループなどで将来的なガイドライン策定が注目される。