米国知財便り
米国知財のもう一つの顔 ― EC販売者を狙うコピーライト・トロール
2026.03.04
ある日突然、eBayから次のような通知が届きます。
「米国裁判所の命令に基づき、あなたのアカウントを凍結しました。」
理由は、米国で提起された商標権または著作権侵害訴訟です。
さらに、凍結解除の条件として和解金の支払いを求められることもあります。
近年、eBayやAmazonなどのモール型ECを利用して海外販売を行う事業者の間で、このようなトラブルが増えています。
いわゆるコピーライト(商標)トロールと呼ばれるものです。
弁護士・弁理士、知財コンサルタントの皆様の中には、すでにこの種の相談を受けたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
電子商取引に直接関係のない方にとっても、米国知財制度の一つの側面として参考になると思います。
1.トロール型訴訟の典型的な流れ
この種の訴訟の大多数は、イリノイ州北部地区連邦地裁(シカゴ)で提起されています。
そして特徴的なのは、多数のオンライン販売者を一括して被告に含める点です。
典型的な手順は次のとおりです。
① 訴訟提起
訴状には被告名が記載されず、”Schedule A”という別資料に販売者が列挙されます。
1件の訴訟で数百の被告が含まれることもあります。
② 一時差止命令(TRO)の申立て
原告は裁判所にTROを申請し、裁判所は原告側の主張のみを基に差止を認めることがあります。
③ プラットフォームへの通知
④ アカウント凍結
プラットフォームは裁判所命令に従ってアカウントを凍結。
その結果、販売者は対象商品だけでなく、他の商品も含めて販売できなくなることがあります。
2.被告が直面する現実
販売者としては
・訴訟を無視する
・裁判で争う
・和解する
といった選択肢があります。
しかし私が受けた相談事例では、実際には、和解金が1,000〜3,000ドル程度とされることも多く、米国で弁護士を立てて争うよりも安価なため、和解を選ぶケースが少なくありません。
一方で、原告代理人に対し、侵害の具体的内容を特定するよう求めたり、権利者本人に事情を説明したりすることで解決に至る場合もあります。
3.米国知財制度の特徴
EC販売が一般化する中、このようなトラブルは決して特殊なものではありません。
むしろ、米国の知財制度には
・一時差止命令(TRO)
・大量被告訴訟
・オンラインプラットフォームとの連動
といった確立された仕組みがあるため、比較的容易に権利行使が可能な構造になっています。
4.最後に
日本企業が米国市場で活動する場合、必ずしも大きな紛争でなくても、このような形で知財問題に巻き込まれる可能性があります。
米国では、紛争が起きてから対応するよりも、早い段階で専門家に相談することが結果的にリスクを小さくすることも少なくありません。
日頃から気軽に相談できる体制を整えておくことも、米国ビジネスにおける一つのリスク管理と言えるでしょう。