米国知財便り
米国知財リスクの基礎シリーズ【第1回】技術の素人が特許を判断? ― 米国特許裁判の陪審制度
2026.03.11
日本の特許訴訟では、裁判官が技術的・法律的な争点を判断します。しかし米国では事情が大きく異なります。米国特許訴訟では、多くの場合、陪審(jury)と呼ばれる一般市民が特許紛争の重要な判断を行います。この点は、日本企業にとって最も戸惑う制度の一つかもしれません。
米国の陪審制度は、合衆国憲法修正第7条に基づく民事陪審制度に由来します。特許侵害訴訟でも当事者が陪審裁判を求めることができ、実務上、多くの案件で陪審が関与します。陪審員は通常6~12名程度の一般市民から選ばれ、必ずしも技術や特許法の専門家ではありません。
それにもかかわらず、米国特許裁判では陪審が、侵害の有無、損害賠償額、さらには故意侵害(willful infringement)の有無といった重要な争点について判断を行うことがあります。
また、特許の無効性についても、事実認定に関する部分は陪審が判断する場合があります。
裁判官は最終的な判決を下しますが、事実認定に関する陪審の評決が訴訟の結果に大きな影響を与えることは少なくありません。
このように、特許や高度な技術に関する紛争を専門家ではない陪審が判断するという点は、日本企業をはじめ他の外国企業にとって大きな制度的ギャップといえます。例えば、複雑な技術内容を陪審にどれだけ分かりやすく説明できるか、企業の行動が陪審にどのような印象を与えるかといった点が、裁判の結果を左右することもあります。
米国特許訴訟では、法的議論だけでなく、「陪審にどのように理解されるか」という観点が訴訟戦略において重要になります。私の経験上、企業の社内文書や警告状への対応など、紛争の初期段階での対応が、その後の陪審への印象や訴訟の形勢に影響するケースも少なくありません。
米国特許紛争では、技術的・法的な議論に加えて、このような制度的背景を理解しておくことが重要です。
次回は、米国特許訴訟において損害賠償額が最大3倍に増額される可能性のある「故意侵害(willful infringement)」について解説します。