米国知財便り
米国知財リスクの基礎シリーズ【第3回】部品メーカーも責任? ― 誘発侵害(Induced Infringement)
2026.03.23
米国特許法では、自社が特許を直接侵害していなくても責任を問われる場合があります。
米国特許法では、特許を直接侵害した企業だけでなく、他者の特許侵害を「誘発」した企業にも責任が認められることがあります。これが「誘発侵害(induced infringement)」と呼ばれる制度です。特に部品メーカーや材料メーカーの場合、自社製品そのものが特許を直接侵害していなくても、顧客による使用態様によって特許侵害が成立する場合には、この誘発侵害が問題となることがあります。
誘発侵害は、米国特許法35 U.S.C. §271(b)に規定されており、他者による特許侵害を積極的に促した場合に成立します。例えば、特許発明の方法を実施するよう顧客に指示するマニュアルの提供や、特定の用途を推奨する営業資料、技術サポートなどが問題となる可能性があります。成立には、まず第三者による直接侵害の存在が前提となり、さらに対象特許を認識した上で侵害を促す意図が必要とされています。
この誘発侵害の成立要件について重要な判断を示したのが、2011年の米国連邦最高裁判決である Global-Tech Appliances, Inc. v. SEB S.A. です。この事件では、フライヤー製品をめぐる特許紛争において、被告企業が対象特許を直接認識していなかったことが争点となりました。最高裁は、誘発侵害が成立するためには、対象となる特許の存在を認識していること、またはそれに準ずる状態が必要であると判断しました。
ここで最高裁が示した重要な概念が、「故意の盲目(willful blindness)」です。これは、特許の存在を明確に認識していなくても、侵害の可能性を強く疑いながら意図的に調査を避けるような態度を指します。最高裁は、このような行為は実質的に特許を知っていた場合と同視できるとして、誘発侵害の成立を認め得ると判断しました。すなわち、企業が意図的に特許調査を避けたり、侵害の可能性を認識しながら確認を怠った場合には、「知らなかった」という主張が必ずしも通用しない可能性があるのです。
さらに誘発侵害については、その後の判例でも要件が整理されています。例えば、2015年の米国連邦最高裁判決である Commil USA, LLC v. Cisco Systems, Inc. では、被告が「特許は無効であると信じていた」という主張は、誘発侵害の責任を否定する抗弁にはならないと判断されました。この判決は、特許の有効性に対する主観的な評価だけでは、誘発侵害の責任を免れることができないことを示したものといえます。
企業実務の観点から見ると、この誘発侵害の問題は決して特殊なものではありません。特に部品メーカーの場合、自社製品が最終製品の一部として使用されるため、顧客による使用方法によって特許侵害が生じることがあります。そのため、製品マニュアル、技術資料、営業資料などの内容が、顧客による特許侵害を誘発するものと評価される可能性には注意が必要です。
私の経験上、誘発侵害の問題は、製品設計だけでなく、顧客への説明資料や技術サポートの内容など、企業の日常的な活動の中で生じることが少なくありません。米国特許訴訟では、こうした文書や社内資料が後に証拠として提出されることもあるため、特許リスクを意識した文書管理や社内対応が重要になります。
次回は、米国特許訴訟の特徴としてしばしば企業を驚かせる制度である「ディスカバリー(discovery)」について解説します。