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岸本外国法事務弁護士事務所

米国知財便り

USPTO、AI支援発明の発明者認定ガイダンスを改訂 — 2024年ガイダンスを全面撤回、発明者は「自然人のみ」の原則を再確認 —

2025.11.27

米国特許商標庁(USPTO)は、AI支援発明に関する発明者認定ガイダンスの改訂版を公表し、2024年2月に発出した従来ガイダンスを全面的に撤回しました。2025-21457.pdf

 

本改訂は、2025年1月23日付の大統領令14179号(「人工知能における米国のリーダーシップを阻む障壁の排除」)を受けたものです。

 

1.発明者認定基準は「AI の有無にかかわらず一貫」

 

USPTOは、新ガイダンスにおいて次の点を明確にしています。

発明者を判断する法的基準は従来と変わらず、AIを用いた場合も新たな基準は設けない。

特許法上、発明者となれるのは自然人のみであり、AIシステムは一切発明者として認められない。

 

米国法(35 U.S.C. §100(f))は、「発明者とは発明を創作した個人である」と規定しており、また最高裁も「発明(invention)とは発明者による着想(conception)を意味する」と判示しています(Pfaff v. Wells Elecs., Inc., 525 U.S. 55 (1988))。

今回のガイダンスは、この既存法理を再確認する位置づけです。

 

2.AI は発明者ではなく『発明ツール』として整理

 

USPTOは、生成AIを含むすべてのAIシステムを「人間の発明者が利用するツール」と明確に位置づけました。

 

AIがアイデア創出に大きく寄与したとしても、それによりAIが発明者と認定されることはありません。

 

また、出願データシートや宣誓書に記載された発明者が、人間の実際の発明者であると推定する従来の運用も維持されています。

 

3.日本企業にとって重要な実務的対応

 

今回のガイダンスは、AIを積極的に活用する日本企業にとって以下の点で重要です。

・AIが重要な役割を果たした案件でも、出願書類には人間の発明者のみを記載する必要がある。

・発明者の「着想(conception)」の形成に、どのように人間が関与したかを社内で記録しておくことが望ましい。

・AIツールの使用履歴やプロンプト管理は、将来の発明者争い対応の観点からも有用。

 

今後、AIを活用した研究開発が一般化するなか、発明者認定の社内ルール整備や文書化の重要性がより高まることが予想されます。