米国知財便り
USPTO、SEP作業部会による『SPARKパイロット・プログラム』を発表― 標準化参加に「特許・PTAB迅速化」を付与 ―
2026.01.15
米国特許商標庁(USPTO)は2025年12月29日、SEP(標準必須特許)Working Groupの最初の施策として、SPARK(Standards Participation and Representation Kudos)Pilot Programを発表しました。
本プログラムは、標準化団体(SDO)での実質的な技術貢献を行った米国の中小企業・大学・非営利団体に対し、特許出願やPTAB手続の迅速化という具体的なインセンティブを付与する制度です。SEP政策であると同時に、米国の標準開発主導権を強化する産業政策的色彩の強い制度と位置付けられています(John A. Squires USPTO長官)。
1.プログラムの要点
・対象:米国の中小企業、大学、非営利団体
・内容:SDOでの技術的貢献等を条件に加速証明書(Acceleration Certificate)を付与
・効果:特許出願審査の迅速化、PTAB審判の優先処理
標準化活動への投資を、特許取得および権利安定化のスピードという形で回収できる点が、本プログラムの大きな特徴です。
2.SEP訴訟・FRAND実務との関係
(1)SEPポートフォリオ形成への影響
・標準策定段階での関与を促しつつ、関連特許の早期権利化を可能にする制度設計
・標準確定前後のタイミングで特許が成立することで、SEP認定・必須性主張の基盤強化につながる
(2)FRAND交渉・紛争への示唆
・標準化活動への「意味ある参加」は、FRAND交渉における当事者の誠実性(good faith)、SEP保有の正当性・技術的貢献度の評価要素として参照され得る
・特に将来的には、標準化参加実績と特許審査の迅速化が制度的に結び付く点が、交渉・訴訟における背景事情として注目される可能性
(3)PTAB実務との関係
・IPRや審判請求において手続迅速化が可能となることで、SEPの有効性を巡る不確実性の早期解消や、グローバル訴訟戦略(差止・ライセンス交渉)との連動が図りやすくなる
3.「SPARK」パイロットに対する日本企業の実務対応
現段階では制度上、原則として日本法人は直接の対象外とされています。ただし、米国子会社や米国法人が標準化参加・特許出願の主体となっている場合には、本プログラムとの関係が生じ得ます。また、米国内拠点のみの場合など、評価が分かれ得るグレーゾーンも存在します。
日本企業としては、SPARKを単に「利用できるか否か」という観点で捉えるのではなく、標準化活動、SEP形成、出願主体をどの国・どの法人で担うのかを再整理する契機と捉えることが重要と考えられます。特に、将来のSEP/FRAND交渉や訴訟を見据え、標準化参加と特許権利化を一体で設計する知財戦略の重要性は、今後一層高まるとみられます。
最後に、標準化およびSEPは本質的にグローバルなものであり、「標準化参加 → PTAB実務 → 特許品質向上」というSPARKのロジックは、国籍に依存しない制度合理性を有しています。そのため、将来的には、米国以外の企業であっても、PTAB実務に深く関与し、米国特許エコシステムに実質的に貢献している主体をどのように扱うかという議論は避けられないと考えられます。
SPARKパイロットプログラムは現時点では米国企業限定の実験的制度ですが、PTABを軸とした国際的なSEPエコシステムへの波及余地を内包しています。日本企業としては、「将来の拡張を前提に、今どのような布石を打つべきか」を検討するフェーズに入ったと言えるでしょう。