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岸本外国法事務弁護士事務所

米国知財便り

USPTOのStewart長官代行、新設の「分離プロセス」制度の下、IPR申立を裁量却下(iRhythm Technologies Inc. v. Welch Allyn Inc.)

2025.06.25

Welch Allynは2024年2月、iRhythmに対し、同社が心拍モニタリング関連の医療機器に関する4件の特許を侵害したとしてデラウェア州連邦地裁に提訴しました。これに対し、iRhythmは同年12月、これらの特許に対するIPRを申し立てました。

しかし、Coke Morgan Stewart長官代行は、以下の理由によりiRhythmのIPR申立てを裁量により却下しました。


裁量却下の主な理由:

  • 長期間の特許認識と行動(特許異議申立)の遅れ: iRhythmは少なくとも2013年にはWelch Allynの特許出願を認識していた(同社のIDSに当該特許出願が明記)。にもかかわらず、IPRの申立は2024年まで行われず、「settled expectations(定着した期待)」がWelch Allyn側に生じていたと判断。
  • Fintiv基準よりも知識と遅延を重視: 通常であれば、Fintiv基準(裁判の進行状況、日程の近接性、訴訟が初期段階であることなど)からはIPR審理開始が支持されるケースであった。しかし、長官代行は、iRhythmの長期的な知識と行動の遅れが、これらの要素を上回ると判断。
  • 専門家の宣誓書について: Welch Allynが、IPR申立の証拠として提出された専門家の意見書を「過度に依存している」と批判した点については、長官はこれを退け、正当な証拠と評価。

上記を総合的に勘案し、Stewart代行長官は「審理を開始すべきではない」と結論づけました。


この事件から得られる教訓

  • 早期申立の重要性:特許を認識した時点から迅速にIPRを提起しなければ、たとえ訴訟リスクが明示されていなくても、裁量却下されるリスクが高まる。
  • IDSの影響力:情報開示書(IDS)で過去に対象特許や出願を引用していた場合、それは「知っていた証拠」として裁量判断に影響を与える可能性がある。
  • 裁量基準の変化:Fintiv基準に加え、「相手側に生じた期待」など新たな視点からの裁量却下が強化されている。今後の戦略にはより慎重な検討が必要。


この事件は、IPR戦略において「特許を知った時期」と「申立のタイミング」が審理の門前で遮られるかどうかを左右する、非常に示唆に富んだ先例といえます。