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岸本外国法事務弁護士事務所

米国知財便り

【米国連邦最高裁速報】スキニー・ラベル事件でHikma勝訴 ― 「誘発侵害」の成立要件を厳格化

2026.06.05

米国連邦最高裁は2026年6月4日、Hikma Pharmaceuticals USA, Inc. v. Amarin Pharma, Inc.事件において、全員一致(9対0)でジェネリック医薬品メーカーであるHikma側を支持する判決を下しました。

 

本件は、FDAが認める「スキニー・ラベル(skinny label:特許対象の用途を意図的に添付文書から除外する制度)」と、特許法上の「誘発侵害(induced infringement)」との関係が争われた重要事件です。

 

Amarinは、魚油由来の心血管系医薬品「Vascepa」について、特定の心血管リスク低減(Cardiovascular Risk Reduction:CV)用途に関する特許を保有していました。一方、Hikmaは、当該CV用途をラベル・添付文書から除外したスキニー・ラベルを用いて、別用途である「重度の高トリグリセリド血症(SH)」向けのジェネリック医薬品の承認を取得していました。

 

しかしAmarinは、Hikmaがプレスリリースやウェブサイト上で自社製品を「generic Vascepa」と表現したことなどにより、医師による特許対象用途での使用を実質的に促したとして、誘発侵害を主張して第一審(地裁)へ提訴しました。しかし地裁は、Amarinの主張は誘発侵害を基礎付けるには不十分であるとして訴えを却下しました。

 

これに対しAmarinが控訴したところ、CAFC(連邦巡回控訴裁判所)は2024年、Amarinの主張には誘発侵害を基礎付ける合理的根拠があるとして、地裁の却下判決を覆しました。これに対しHikmaが上告し、最高裁が本件を審理することとなりました。

 

最高裁は、誘発侵害の成立には、単に医師が侵害用途に使用する可能性が存在するだけでは足りず、侵害被疑者がその侵害行為を積極的に促進・奨励したことを示す具体的事実が必要であると判断しました。そして、Amarinの主張は「侵害が起こり得る可能性」を示したにすぎず、Hikmaが特許用途への使用を積極的に推奨したことを十分に示していないとして、訴えを退けました。

 

特に最高裁は、ジェネリック企業が自社製品を先発品のジェネリック版として説明すること自体は業界慣行であり、それだけで誘発侵害を推認すべきではないと述べています。

 

本判決は、2023年に最高裁が上告を却下したTeva v. GlaxoSmithKline事件とは対照的です。Teva事件では、CAFCが認定した誘発侵害判断が事実上維持されましたが、最高裁は実体判断を示しませんでした。これに対し、本判決では最高裁自らが判断を示し、スキニー・ラベル制度の利用それ自体から直ちに誘発侵害を推認すべきではないとの考え方を明確に打ち出しました。

 

今後の実務への影響は大きいと考えられます。

まず、ジェネリック医薬品メーカーにとっては、FDAが認めるスキニー・ラベル制度の法的安定性が高まり、用途特許が残存する医薬品市場への参入予見可能性が高まる可能性があります。

 

一方、先発医薬品メーカーにとっては、用途特許を根拠とする誘発侵害訴訟のハードルが上昇し、単なる市場実態やオフ・ラベル使用の存在だけでは足りず、積極的な誘導行為を示す証拠の確保がより重要になるでしょう。

 

本判決は、Hatch-Waxman制度が目指す「特許保護」と「ジェネリック競争促進」のバランスについて、最高裁が後者の政策的意義を一定程度重視した判断として位置付けられます。医薬品分野に限らず、間接侵害における「積極的誘導」の立証水準を考える上でも注目すべき判決といえるでしょう。

 

本判決は医薬品分野におけるスキニー・ラベル訴訟にとどまらず、IT、エレクトロニクスその他の製造業分野における誘発侵害の成否にも影響を与える可能性があります。特に、第三者による侵害行為を前提とする間接侵害訴訟において、「積極的誘導」の立証水準を考える上で重要な先例となることが予想されます。

 

なお、「スキニー・ラベルと誘発侵害」の関係については、過去の記事でも取り上げていますので、詳細にご興味のある方はそちらもご参照いただければ幸いです。