米国知財便り
米連邦最高裁、Google v. VirtaMove事件の上告を受理 ― Chevron(シェブロン)法理 終焉後のUSPTO裁量権が争点に
2026.06.23
米連邦最高裁は2026年6月5日、Google LLC v. VirtaMove Corp. 事件の上告を受理しました。本件は、一見すると特許審判部(PTAB)における当事者系レビュー(IPR)の開始可否をめぐる手続的な争いに見えますが、その本質は「米国特許商標庁(USPTO)がどこまで広範な裁量権を有するのか」という、特許法と行政法が交差する極めて重要なパラダイムシフトを含んでいます。
【背景】:USPTOの「独自基準」に挑むGoogle
近年、USPTOは「Settled Expectations(確立された期待利益)」を理由に、発行から長期間が経過した特許に対するIPR申立を裁量的に拒絶する運用を行ってきました。
これに対しGoogle側は、「USPTOには、米国発明法(AIA)に規定されていない新たな拒絶基準を独自に創設する権限はない」と主張しています。
本件の核心は、単なるIPRの開始基準に留まらず、以下の2点に集約されます。
・USPTOは、議会が法律で明示していない基準を行政判断として創設できるのか
・その行政判断に対して、裁判所はどこまで司法審査(チェック)を行えるのか
【「ポスト・シェブロン」時代初の重要な知財裁判】
本件は、2024年の最高裁判決 Loper Bright Enterprises v. Raimondo によって「Chevron(シェブロン)法理」が否定されて以降、USPTOの裁量権の限界が初めて本格的に問われる知財事件となる可能性があります。
従来であれば、法律の文言に曖昧さがある場合、シェブロン法理に基づき行政機関(USPTO)の合理的な解釈が尊重される傾向にありました。しかし同法理の終焉により、裁判所は行政機関の解釈に依拠せず、自ら法律を白紙から解釈(独立判断)することが求められます。結果として、「AIAは本当にUSPTOへそこまでの裁量を与えているのか」が厳格に問われることになります。
【予想される影響】
仮に最高裁がGoogleの主張を支持した場合には、Settled Expectationsに限らず、「Fintivガイドライン」をはじめとする近年の裁量的運用全般が見直しを迫られる可能性があります。
他方、USPTO側が勝訴した場合には、シェブロン法理が否定された後も、AIAが付与した裁量権自体は依然として広範に認められるとの方向性が示される可能性があります。
本件は、表面的にはPTABの審理開始に関する事件ですが、その背後には「シェブロン法理終焉後のUSPTO」という、より大きなテーマが存在しています。
今後予定される口頭弁論および最高裁判決は、PTAB実務のみならず、USPTOの規則制定や裁量的運用全般に大きな影響を及ぼす可能性があり、その行方が注目されます。
本件についても今後の審理の進展を注視し、適宜ご紹介したいと思います。
なお、シェブロン法理の終焉が知財実務に与える構造的な影響については、日本知的財産協会『知財管理』Vol.75 No.7, pp.909–921 (2025) に掲載された拙稿「シェブロン法理の終焉に関する米国連邦最高裁判決」にて詳細に解説しております。ご興味のある方は、ぜひ以下の参考資料よりご一読いただけますと幸いです。
【参考資料】
拙稿「シェブロン法理の終焉に関する米国連邦最高裁判決」