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岸本外国法事務弁護士事務所

米国知財便り

【予防としてのFTO(番外編)】AI時代の新・FTOワークフロー:知財部と専門家の「協働」が最強の盾を作る

2026.05.18

前回、AIの進化によって特許検索の精度が飛躍的に向上し、これまで見えなかったリスクを事前に可視化できる時代が来たとお話ししました。では、この変化を具体的にどう実務に落とし込むべきでしょうか。

 

これまでのFTO調査は、外部へ全面的に依存して「網羅的なレポート」を取得するのが一般的でした。しかし、これからは「AIを使いこなす知財部」と「実務を熟知した専門家」が直接連携する、より本質的で効率的なワークフローが主流になると確信しています。

 

1.FTO調査のインハウス(内製)化:知財部がAIを相棒にする

 

一次調査の段階では、AI(セマンティック検索や大規模言語モデル)の機動力を最大限に活用します。

知財部員が自らAIを操り、新製品の特徴から瞬時に数千・数万の公報を網羅し、潜在的なリスクを洗い出す。これまで数週間かかっていたスクリーニングを数日、あるいは数時間に短縮する「スピード感」は、開発競争において不可欠な武器となります。従来は外部に委ねていた初期調査を、社内で手軽にかつ高度に行える時代が来ているのです。

 

2.鑑定における「最後の1ミリ」:訴訟実務の視点

 

しかし、AIが提示するのはあくまで機械的なスクリーニングによる「侵害の可能性」というデータに過ぎません。訴訟大国・米国での特許訴訟という、ひとたび巻き込まれれば経営を揺るがす過酷な現場を想定したとき、最後の一線を守るのは「実務経験に裏打ちされた判断力」です。

 

・ 「相手方弁護士なら、この文言の隙間をどう突いてくるか」

・ 「陪審員の目には、この技術の差異が『誠実な努力』として映るか」

・ 「均等論や審査経過を鑑みたとき、真のリスクはどこに潜んでいるか」

 

AIが示した広大な「候補」の中から、訴訟の現場を知る者の視点で法的・実務的な検討を加え、確固たる「非侵害の論理」を組み立てる。このプロセスがあって初めて、FTOは単なる「データ集め」から、事業を守る「鑑定」へと変わります。

 

3.理想のサイクル:鑑定から設計変更へ

 

リスクが特定されたならば、市場に出る前に「非侵害」と言い切れるまで設計を磨き上げる。専門的な鑑定に基づき、必要であれば確実な迂回設計(design-around)を完了させる。

 

これまでの調査プロセスを見直し、より付加価値の高い「法的鑑定と戦略的判断」へと予算とリソースをシフトさせる。

これこそが、同じ予算でも企業の防衛力を最大化し、米国特許訴訟という巨大な不確実性をコントロール下に置くための、AI時代の最適解です。

 

結びに代えて

 

AIによって特許検索が容易になればなるほど、膨大な情報の山から「正しい答え」を導き出し、経営判断を下すための専門性の重要性はむしろ増していきます。

 

AIという最新の武器を手に、企業の知財部とプロフェッショナルが互いの強みを活かし、手を取り合う。そんな「協働」の先にこそ、不確実なグローバル市場で勝ち残るための、真に強固な盾が築かれると思います。