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私たちの中にある小さな宇宙シリーズ【第5回】あくびはなぜうつるのか
2026.04.17
「春眠暁を覚えず」とはよく言ったもので、春になると心地よく眠れて、つい寝坊してしまうこともありがちです。
眠いときには自然とあくびが出ますが、あくびの正体とは何でしょうか。
調べてみると、あくびは、脳が疲労や退屈を感じた際に、覚醒レベルを調整するために起こる生理現象と考えられています。
特に近年では、深い吸気と顎の大きな動きによって血流が変化し、脳の温度を下げる――いわば「脳のクーリング」の役割を果たしているという説が有力です。
一方で、かつて有力とされた「酸素不足を補うため」という説明は、現在では主たる要因ではないと考えられています。
ところで、このあくびですが、うつることが知られています。
誰かがあくびをすると、それを見たり、時には思い浮かべたりするだけで、自分もあくびをしてしまう。
この現象は「伝染性あくび(contagious yawning)」と呼ばれ、単なる生理反応を超えた特徴を持っています。
興味深いことに、あくびの伝染には脳の働きが関係していると考えられています。
特に、他者の行動や感情を自分の中で再現する「ミラーニューロン系」や、共感に関わる前頭前野・島皮質などの領域が関与している可能性が指摘されています。
実際、あくびは親しい人ほど、あるいは共感関係の強い相手ほど、うつりやすい傾向があると報告されています。
また、小さな子どもや共感機能に特徴のある人では、この現象が弱いことも知られています。
つまり、あくびがうつるという現象は、単なる「眠気の連鎖」ではなく、他者の状態を無意識に読み取り、それに同調する神経的な仕組みの表れともいえるのです。
私たちは普段、自分の意識や感覚を、自分の内側に閉じたものとして捉えがちです。
しかし、あくびのようなささやかな現象を見ていると、人の脳は思っている以上に、他者とゆるやかにつながっていることに気づかされます。
誰かのあくびが、自分の中に静かに広がっていく。
その瞬間、私たちは、目に見えない神経のネットワークを通じて、小さな共鳴を共有しているのかもしれません。
そして、その仕組みはまだ完全には解明されておらず、春のやわらかな眠気の中でふと生まれるあくびもまた、私たちの中にある小さな謎のひとつなのかもしれません。
身近に犬や猫がいる方は、あくびがうつるかどうか、そっと様子を見てみるのもいいかもしれません。