米国知財便り
【要注意】そのAIによる 米国特許調査、本当に安全❓―「故意侵害」を招く盲点とは
2026.10.01
過去の連載記事「予防法務としてのFTO」では、AIを活用したFTO調査によって、同業他社に限らない全方位のリスク把握が可能になることを解説しました。今回は、その便利さの裏に潜み、見落とされがちな落とし穴について注意を喚起したいと思います。
1.AIとのやり取りは「守られない」
「米国知財リスクの基礎シリーズ 第5.3回」でご紹介したとおり、2026年のUnited States v. Heppner事件(ニューヨーク南部地区連邦地裁)は、依頼者が一般向けAIとやり取りした内容について、弁護士・依頼者間秘匿特権もワークプロダクトも認めませんでした。AIは弁護士ではなく、入力内容の学習利用や開示を許容する利用規約の下では、秘密性の合理的な期待もないからです。
さらに、弁護士から受けた助言をAIに入力すれば、元の助言についても秘匿特権の放棄と見做されるおそれがあります。
2.FTO調査に当てはめると
例えば、企業知財部門が自社製品の仕様をAIに入力し、侵害リスクのある他社米国特許を抽出させたとします。この入出力が秘匿特権で保護されなければ、将来その特許権者から提訴された際、ディスカバリーで開示を求められる可能性があります。弁護士の鑑定内容をAIに貼り付けて要約させた場合も同様です。
相手方にとって、AIの抽出リストは「被告は市場投入前に本件特許を知っていた」ことを示す格好の証拠となります。AIが付した「侵害可能性:高」といった評価が含まれていれば、なおさらです。
3.「知っていた」から「故意侵害」へ
米国では、故意侵害と認定されれば損害賠償額が最大3倍まで増額され得ます(35 U.S.C. §284、2016年Halo事件最高裁判決)。そして故意侵害の判断は、侵害者が特許を認識していたかどうかが出発点となります。
もっとも、米国特許法298条により、弁護士の鑑定を取得しなかったこと自体を故意の証拠とすることはできません。しかし、AIの記録によって特許の認識が立証される一方、非侵害や無効の合理的な根拠を示す鑑定がなければ、「リスクを知りながら漫然と販売を続けた」との主張に反論する有力な材料を欠くことになります。AIで特許を見つけながら鑑定を取らないFTO調査は、調査をしない場合よりもかえって不利になりかねないのです。
4.実務上の留意点
・弁護士との通信内容や鑑定書を一般向けAIに入力しない
・入力データを学習に使わず、秘密保持が契約で担保された法人向けAIを選ぶ(ただし、それだけで「秘匿特権」が保証されるわけではない)
・AI調査は弁護士の関与の下で行う。弁護士自身がAIで一次調査を行い、その結果を法的助言として伝える方式が最も安全である(Heppner判決は、弁護士の指示によるAI利用であれば結論が異なり得ることを示唆するにとどまる)
・抽出された特許は放置せず、弁護士による非侵害・無効の鑑定や回避設計につなげる
おわりに
AIは「見つける力」を飛躍的に高めますが、見つけた以上、その記録は将来の訴訟で証拠となり得ます。AI活用FTO調査は、秘匿特権に配慮した体制と弁護士の鑑定がそろってはじめて、真の「盾」となるのです。