米国知財便り
IPRは“一発勝負”—正しい理論でも遅ければ負ける(Implicit v. Sonos)
2026.05.02
米連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は2026年3月9日、Implicit, LLC v. Sonos, Inc. 事件において、IPR(当事者系レビュー)の手続完了後に特許法256条に基づく発明者訂正(Correction of Inventorship)を行っても、その結果を遡及させてIPRの判断を再考させることはできないとする重要な判決を下しました。Implicit, LLC v. Sonos, Inc. (Fed. Cir., March 9, 2026) No. 20-1173.
本判決の教訓を一言で言えば、「IPRにおいて、法理の後出し(sandbagging)は許されない」という点に尽きます。
1.事件の概要
特許権者ImplicitはIPR手続中、先行技術を回避するために「第三者の作業成果が発明者に帰属する(inurement)」という理論を展開しましたが、PTAB(特許審判部)はこれを認めず、特許無効の判断を下しました。
これに対しImplicitは、審決後に連邦地裁で米国特許法第256条(35 U.S.C. §256)に基づき、当該第三者を共同発明者として追加する訂正を行いました。その上で、「発明者が訂正された以上、先行技術の資格が遡及的に消滅した」と主張し、PTABの判断の取り消しを求めました。
2.CAFCの判断:遡及効よりも「手続の適正」を重視
CAFCはImplicitの戦略を退け、以下の判断を示しました。
・遡及効の限界: 通常、§256による発明者訂正には遡及効が認められるが、それは「手続上の主張失権(forfeiture)」を正当化するものではない。
・主張の機会: ImplicitはIPR手続中に共同発明の理論を主張できたにもかかわらず、あえて選択しなかった。
・禁反言的運用: 最終審決後に事実関係を組み替えて判断を覆そうとする行為は、行政手続の効率性と公平性を著しく損なう。
結論として、CAFCは「法律上の訂正が遡及的に有効であっても、適時に主張されなかった理論は救済されない」という厳格な姿勢を明確にしました。
3.実務上の重要ポイントと示唆
本判決は、IPRにおけるディフェンス戦略に極めて重要な示唆を与えています。
・IPRは“理論の一発勝負”:
不利な結果が出てから別の構成で主張を組み替える「プランB」は、IPRにおいては通用しません。
・発明者認定の早期確定:
先行技術回避のために発明者の追加や訂正が必要な場合、IPRの記録(record)が閉まる前に完了させるか、少なくともその主張を予備的に含めておく必要があります。
・Antedating(遡及)戦略は多角的に:
Inurement(帰属)とJoint Inventorship(共同発明)は表裏一体ですが、法理としては別物です。当初から両方の可能性を検討し、証拠を提出しておくべきです。
・PTABの裁量への広範な支持:
CAFCは、PTABが「後出し主張」を排除する裁量を広く認めました。これは、PTABでの手続の重みがこれまで以上に増していることを意味します。
4.結論
IPRは一見すると書面中心の手続ですが、その運用は極めて厳格です。米国民事訴訟のように発見事項に基づいて柔軟に戦略を修正する余地は乏しく、「最初の書面提出段階で勝敗の大勢が決まる」という認識で、初期調査に全力を注ぐ必要があります。